ANCKIT3 − アクティブ消音実験キット

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現在出荷中のバージョンは旧ANCKIT2を改良したANCKIT3です.
旧ANCKIT2からのおもな変更点は下記のとうりです. ANCKIT2同様にANCソフトウェアのソースコードが付属しています.


よくある質問とその答え

Q.CQ出版の『インターフェース』誌 2023年12月号に『音の信号処理 適応フィルタで観測位置によらず消音…基本のLMSアルゴリズムを試す』という記事が掲載されているが、ANCKIT3のダクト無しの消音プログラムはこの記事と同じものか? あるいは記事と異なる点は?

A.ACKIT3のダクト無しの消音プログラムは記事とは下記の点が異なります.


下記の情報は旧ANCKIT2のものです. 今後、順次ANCKIT3の最新情報に更新する予定です.



価格
製品概要
用途
キット内容

ANCKITボード全景C6713 DSK(DSPボード)+ LED/スイッチ・ボード

[キット付属ミニチュア・ダクト全景]

付属ミニチュア・ダクトは折り返し構造で、内部管路長は3mを超えます.
マイクの取り付け位置を変更して、実効的な管路長を短縮しての実験も可能です.
スピーカー、マイクはアルミダイキャスト・ケースの内部に入っています.(蓋を開けて取り付け状態の確認が可能)
組み替えて直線構造のダクトにすることも可能です.(ただし別途連結プレートが必要)
オプション
その他

他社製類似製品情報

適応フィルタの動作速度

ANCKITで用いているLMSアルゴリズムを用いた適応フィルタ(下図左)の演算は,FIRフィルタの演算(FIR filter)とフィルタ係数更新演算(LMS algorithm)に分けて考えることが出来ます(下図右)

[適応フィルタの構成]
適応フィルタ FIR filter + LMS algorithm


それぞれの処理の1タップあたりの実行クロック数と演算時間(C6713 DSKのクロック周波数225MHzの場合)を下表に示します.

  clock count [clock/tap] execution time [ns/tap]
 FIR filter  LMS algorithm  total  FIR filter  LMS algorithm  total
 normal 5 15 20 22 67 89
 fast 3 7 10 13 31 44


オプションの射影アルゴリズム・ライブラリの動作速度は下表のとおりです. 係数更新アルゴリズムがLMS algorithmから射影アルゴリズム(affine algorithm)に代わります. FIR filter関数はTIの信号処理ライブラリを用いて記述しています.

  clock count [clock/tap] execution time [ns/tap]
 FIR filter  affine algorithm  total  FIR filter  affine algorithm  total
 affine 3 8 11 13 36 49

 


簡略化した構成での実験例


簡略化した構成での騒音レベルの変化マイクを1本のみ使った簡略化したシステム構成での実験結果です.(ファンはオフにした状態での測定結果です) エラー・センサー・マイクの出力波形を描いています.(横軸:時間,縦軸:振幅) 時間軸の約15秒の時点でANC動作をオンにしています. 時間と共に適応アルゴリズムが収束し,騒音レベルが低下している様子がわかります.

実際に音を聞いて消音効果を確かめてみてください.
anc02.wav (2813KB)

[簡略化した構成での消音効果]打ち消し前後の騒音スペクトルの比較のグラフです. (横軸:周波数,縦軸:音圧レベル)

 水色:ANCオフ
 紫色:ANCオン

2kHz以下の周波数で約10dB〜25dB程度の消音効果があります.

 

[簡略化したダクト消音実験システムの構成]この構成は消音システムの基本的な動作チェックに用いられます. この構成ではダクト長の制約を受けずに消音実験をおこなうことが出来ます.

上の波形およびスペクトルのグラフは左図のエラー・センサー・マイク(ERROR)の出力信号の波形とスペクトルを描いたのものです.


正規の構成での実験例

騒音レベルの変化実際のダクト消音システムに用いられる構成での実験結果です.(横軸:時間,縦軸:振幅) 時間軸の約15秒の時点でANC動作をオンにしています. オプションの小型ファンでは十分な音圧レベルが得られないので,スピーカから再生したランダム・ノイズの消音をしています.

実際に音を聞いて消音効果を確かめてみてください.
anc04.wav (5626KB)


[消音効果]打ち消し前後の騒音スペクトルの比較のグラフです. (横軸:周波数,縦軸:音圧レベル)

 水色:ANCオフ
 紫色:ANCオン

1kHz以下の周波数で20dB程度の消音効果があります. 取扱の容易さを考量したためにANCKIT付属ダクトは全長1.5mしかありませんが,もっとダクトが長い実際の消音システムではより大きな消音効果が得られます.


 

[実際のダクト消音システムの構成]実際のダクト消音システムで用いられるシステム構成です.(ハウリング防止用フィルタなどを含みます) キット付属のソースプログラムを一部手直しするだけで,お客様が作成された消音システムにそのまま転用可能です.


加速度センサを用いた実験例

加速度センサを用いた消音実験も可能です.(ANCKITには加速度センサは含まれていません)


[ダクト消音システムの簡略化したシステム構成図]左図はダクト消音システムの簡略化した構成図です.
ダクト上流からのノイズをセンスするためにマイクを使っています.


 

[加速度センサを用いたダクト消音システムの簡略化した構成図]一方,マイクの代わりに,加速度センサを使ってノイズを検出して消音をすることも可能です. この構成には音響的なフィードバック・パスがありませんので,ハウリング防止用フィルタを省略することが可能です.(厳密には打ち消しスピーカから発生した振動の一部が加速度センサでピックアップされます)

加速度センサの取り付け状態実験例では騒音発生用スピーカのエンクロージャに振動検出用の加速度センサを取り付けています(旧ANCKITでの実験例). エンクロージャ内側には防振用のブチルゴムを貼り付けてありますが,それでも十分に加速度センサで振動検出可能です. 使っている加速度センサは電子血圧計用の周波数特性のあまり良くない圧電型のものです.
(左の写真の乱流発生用ファンはオプションです)

[雑音検出にマイクを使った場合の消音効果]雑音検出にマイクを使った場合の実験結果です.

 水色:ANCオフ
 紫色:ANCオン

定在波を完全には抑圧できていないために,その影響を受けて周波数により消音量がばらつきます.

 

 

 

 



[雑音検出に加速度センサを使った場合の消音効果]雑音検出に加速度センサを使った場合の実験結果です.

 水色:ANCオフ
 紫色:ANCオン

加速度センサの周波数特性の影響等のために消音帯域は狭くなっていますが,定在波の影響はみられません.

 

[回転センサを用いたダクト消音システムの構成]実際の消音システムでは,エンジン排気の消音をおこなう場合などに加速度センサを用いたノイズ検出手法を適用可能です. エンジンの振動エネルギーの一部が音響エネルギーとして放射されるのですから,音圧レベルを検出しても、加速度を検出しても同じことです.(コヒーレンスが大きければ問題ありません)

クランク軸の回転に同期した調波成分のみに対する消音をおこなうのであれば,マイクや加速度センサの代わりにクランク軸の回転数を検出する回転センサを使ってもかまいません.

排気口部分がバッフル状になっている場合は、左図のようなシステム構成も可能です. 十分なダクト長が得られない場合でも消音可能ですが、消音対象は周期性雑音に限られます. なお、、センサー用のマイクをダクトの外部に設置しているため、外来雑音の影響を受ける可能性があります.

吸排気部分を除いてエンクロージャーで完全に囲われている場合は、左図のような構成も可能です. 開口部から外部に漏れる周期性を有する騒音の消音システムとなります. この場合の消音対象周波数の上限はエンクロージャの物理的なサイズの制約を受けます.(消音可能帯域幅が狭くなります)


エコキュートの騒音対策にアクティブ消音技術を適用可能か?

最近、エコキュートの騒音問題が話題となっているようです. ANCKITはエアコン、冷蔵庫等のコンプレッサ騒音に関連した業務をされているところへの販売実績はまだ無いのですが、アクティブ消音技術は問題無くエコキュートにも適用可能です. ただし考慮しなければならない点がいくつかあります.

技術的に問題となるのは、web上で公開されている資料を見るとエコキュートの騒音には電源に同期した50Hz/60Hzの整数倍以外の周期音成分も含まれていることです.(エコキュートはコンプッサが2段構成になっているということですが、そのために電源非同期成分が発生するのでしょうか?)
50Hz/60Hz成分のみをアクティブ消音するならば、打ち消し音源も50Hz/60Hzのみを出力すれば良く、共鳴管方式やレゾネータ構造のもので小型化・効率化が可能です.
共鳴管方式、レゾネータ構造の打ち消し音源


50Hz/60Hz以外(以下)の周期音成分にも対応しようとすると、それなりの音響出力も必要ですから、例えばスーパーウーハー型の重くて大きい打ち消し音源が必要です.
スーパーウーハー型の打ち消し音源


もう一つの問題は、技術的にはアクティブ消音で対策が可能であっても、商品として考えるとそのコストを誰が負担するのか(負担できるのか)ということです.
一般向けの商品レベルでダクト消音が普及しないのも同じ問題があるからです. 騒音対策に後からわざわざコストをかけることは難しいので、自社製の大型発電機などに最初からアクティブ消音装置を組み込んで販売できる重電・重工メーカーやエンジニアリング会社以外はアクティブ消音を採用しづらいのです.(コスト的に後付の騒音対策商品とは成立しなくても、高額な自社製品に最初から組み込んで販売したり、工場出荷時取り付けのオプションとして提供することは可能)

騒音対策商品として成立しうるかどうかは別として、ANCKITを使ってエコキュートの低周波騒音の打ち消し実験は可能です. ダクト消音とほとんど同じ構成で実験出来ますが、打消し音源のアンプとスピーカー等は別途準備する必要があります. 詳細に関しては当社まで直接お問い合わせください → TEL (042)357-0621

ノイズ・キャンセリング・ヘッドホンの実験

プログラムに修正を加えて、ノイズ・キャンセリング・ヘッドホンの構成での実験も可能です. 消音対象は周期性ノイズとなります. 
ノイズ・キャンセリング・ヘッドホンの構成での実験には付属のミニチュアダクトは使用しません. 実験用のスピーカとマイクはお客様でご用意ください. なお、付属ミニチュア・ダクトから取り外したマイクの流用は可能です. 
システムのブロック線図は下図のようになります. C'はスピーカとマイク間のインパルスレスポンスCの推定値(測定値)をあらわします.(事前にCの測定をおこないます) 適応フィルタ(FIR+LMS)は周期性雑音を除去する予測器として働きます. マイク位置では外来の周期性ノイズは抑圧されますが、スピーカから放射された音楽はちゃんと聞こえます.(スピーカからはノイズを打ち消す逆位相信号と音楽が出力されます)
ノイズ・キャンセリング・ヘッドホンのブロック線図

ノイズ・キャンセリング・ヘッドホンのシステム構成

マイク位置では周期性ノイズは抑圧されるが、スピーカから再生された音楽はちゃんと聞こえる.
実験時にはマイクとスピーカは密閉した容器に納める.
参考までにScilabによるノイズ・キャンセリング・ヘッドホンのシミュレーション結果を以下に示します.(ノイズ・キャンセラのオン/オフを切り替えた時の、マイク出力信号のwavファイルです) 意図的に適応フィルタの収束速度を遅く設定しているので、時間とともに周期性ノイズが抑圧されていく様子が良く分かります.
ノイズ・キャンセラ・オフ nc_off.wav (391KB)
ノイズ・キャンセラ・オン nc_on.wav (391KB)
 
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