音波でエネルギーを伝送する実験
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実験回路
2つの同型のスピーカを対向させて、片側のスピーカから音を出し、もう一方のスピーカから出力される電圧を測定するだけです.
スピーカは比較的大型のものの方が良いでしょう. インピーダンス4Ω〜16Ω程度の普通のもので十分です.
抵抗の値も4Ω〜20Ω程度でかまいません.
発振器がなければオーディオ・プレーヤ等をパワーアンプに接続して、音楽で実験をしてもかまいません.
過大な歪みが生じないように、注意して再生レベルを設定してください.
実験結果
1kHzの正弦波で実験をおこないました.
左側のスピーカの入力信号の波形と、右側のスピーカの出力信号の波形をオシロスコープを用いて観測した結果です.
表示スケールは上の波形(左側のスピーカ入力)が一目盛り 5V、下の波形(右側のスピーカ出力)が一目盛り 50mV (0.05V) です.
スピーカ間の距離
0cm
(2つのスピーカを密着させた時)
左のスピーカへの入力電力は 3.36[V] x 3.36[V] ÷ 6[Ω] = 1.13[W]
右のスピーカからの出力電力は 0.036[V] x 0.036[V] ÷ 10[Ω] = 0.00013[W] = 0.13[mW]
エネルギーの伝送効率は 0.00013[W] ÷ 1.13[W] x 100 = 0.012[%]
スピーカ間の距離
10cm
左のスピーカへの入力電力は 1.13[W]
右のスピーカからの出力電力は 0.0072[V] x 0.0072[V] ÷ 10[Ω] = 0.0000051[W] = 0.0051[mW]
エネルギーの伝送効率は 0.0000051[W] ÷ 1.13[W] x 100 = 0.00045[%]
スピーカ間の距離
30cm
左のスピーカへの入力電力は 1.13[W]
右のスピーカらの出力電力は 0.0026[V] x 0.0026[V] ÷10[Ω] = 0.00000068[W] = 0.00068[mW]
エネルギーの伝送効率は 0.00000068[W] ÷ 1.13[W] x 100 = 0.000060[%]
考察
音波を用いたエネルギー伝送の効率は極めて低い. 2つのスピーカを密着させても伝送効率はわずか0.012%しか無い.
伝送効率の低い理由の一つは、スピーカのエネルギー変換効率が低いからである. パワーアンプからスピーカに電気エネルギーを供給しても音響エネルギーに変換されるのはわずか数%で、残りは熱になる.(無理に大出力を加えると高熱でスピーカのボイスコイルが焼き切れる) 強力な磁気回路と金属振動板を用いた大型のホーン・スピーカはボイスコイル方式のスピーカよりも効率が良いが、それにも限りがある.
すわなちステレオで大音量でステレオを鳴らしていても、スピーカから放射されている音響エネルギーは微々たるものである. 同様に耐え難い大音量の騒音といえども、それから取り出すことの出来るエネルギーは小さい.
そもそも家庭でステレオをガンガン大音量で鳴らしていても、音楽再生時のパワーアンプの平均的な(電気的)出力電力は1Wにも満たない.(平均1Wもの出力でステレオを鳴らしたら、近隣の家々から苦情が殺到する) そして大音量でステレオを鳴らしても、スピーカから放射され空間中に拡散していく音響エネルギーはごくわずかである.
受音器として使っている右側のスピーカの音響エネルギーから電気エネルギーへの変換効率も極めて低い.
音波エネルギー伝送の効率が悪いもう一つの理由は、左のスピーカから放射された音波の波面が(原理的には)球面状に広がっていくからである.(
逆二乗則
にしたがって空間にエネルギーが分散する) スピーカ間の距離を大きくすると、受音器として使っている右側のスピーカの振動板面積あたりの到達エネルギーが小さくなるので、エネルギー伝送効率はどんどん低下する.
密閉されたパイプ中での音響エネルギー伝送を用いた実用的な研究はあるが、一般的な空間中では音波を用いたエネルギー伝送は実用にならない. 説明したように音波から得られるエネルギーは極めて微少である. それは音響の専門家には分かり切った事実なので、音響屋は音波を用いた発電技術には興味を持たない.
そよ風程度の微少な気流(=見方を変えれば人間には聞こえない超々低周波音)で発電したエネルギーを電源として屋外に設置したセンサー・ネットワークを動かすというような研究はあるが、それは音響屋の仕事の範疇ではない. そのような研究をしているのは超低消費電力LSIとその応用システムの研究者や発電素子の研究者である. 彼らにしても、そよ風で発電したエネルギーで携帯電話を充電したり家電製品を動かそうなどとは考えていない.
人間の声を用いた発電・LED点灯のデモンストレーションについて
左図のような構成で、人間の声で発電をするというデモンストレーションをおこなっている会社があります. 喋るとLEDが光ります.
大変印象的なデモンストレーションですが、厳密にはこれは音波(音声)で発電しているのではありません.
声帯を振動させて声を出さなくとも、ゴム風船を膨らませるときのようにフッ、フッ、フッと息を吹き込めば発電してLEDが光るはずです.
上のデモの原理を模式的に示すと左図のようになります. これは音波ではなく、肺からの空気圧(脈流)で発電していることになります.
ピストンを小刻みに振動させながら押し込むことにより、効率的に振動板(圧電素子)を撓ませることが出来ます.
「圧力抜きの小穴」は過大な圧力がかかって振動板が破損することを避けるためのものです.
上の図のデモにおいても、唇と発電装置の隙間から少しずつ息が漏れているはずです.(息漏れが無ければ、声帯を振動させることは出来ません)
左図のように口と発電装置を離して実験をするとどうなるでしょうか?
本当に人間の声からLEDを点灯することが出来るほどの電力が得られるのでしょうか?
人間の声(正確には肺からの空気圧)でLEDを光らせるデモをやっている会社の装置の振動板(圧電素子)とLEDの間には何らかの電子回路が入っているようですが、それがどのような働きをしているのか、考えてみるのも面白いと思います.
TVのニュース番組などで見たデモではLEDは連続的に点灯するのではなく、間欠的にピカッ、ピカッと光っています. おそらく圧電素子からの出力をコンデンサ等に蓄えてから、瞬間的に蓄えた電力を昇圧してLEDに供給する工夫をしているのではないかと推測されます.
なぜデモに白熱電球(豆電球)ではなく、LEDを使っているのか
も考えてみましょう.
モーターを使ったエネルギー変換(伝送)の実験
下図のような構成で2つの直流モーターを使ったエネルギー変換(エネルギー伝送)の実験をすると、その伝送効率はどのくらいになるでしょうか? 直流電圧計と直流電流計があれば測定が出来ます.
模型用の小型モーター(マブチ・モーター)を用いる場合、ジョイントはゴム製のもの(ゴムチューブ)で十分です.
電圧計・電流計が無くても、豆電球が点灯することから効率の高さが実感できるはずです.
関連した話題として
振動でLEDを光らせる実験
のページもご覧ください.
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